銚子駅と外川駅、全長たったの6.4kmをつなぐローカル線「銚子電鉄」沿いにその工場はあります。
観光地として人気の高い犬吠崎にもほど近い「ミストソリューション 君ヶ浜駅」から10分程度。
一面に広がる畑の真ん中を銚子電鉄の線路がまっすぐに走り、遮断機もない踏切がぽつんと佇んでいるだけ。そんな少し寂しい場所を歩くと、見えてきました!
「株式会社マルサ斉藤ゴム 銚子工場」。
看板にも書いてある通り、ここが「日本で唯一の手作りゴム風船工場」なんです。
風船がどのように作られているかなんて考えたこともありませんでしたが、現在は工場で大量生産されるのが主流。にも関わらず、マルサ斉藤ゴムでは、今でも手作りにこだわってゴム風船を作っています。
工場内に入ると、ゴムの匂いなのか、工場独特の香りが…。中では、昭和の香り漂う年季の入った機械に囲まれ、風船職人の伊藤貴明さんが黙々と作業していました。
現在、マルサ斉藤ゴム 銚子工場の運営を切り盛りする伊藤さんは、3年前に県外から銚子に移住し、全く別の業界から風船職人としてのキャリアをスタートさせた異色の経歴の持ち主。
お昼すぎに編集部一行がマルサ斉藤ゴムを訪れると、伊藤さんは一人黙々と風船作りをしていました。
色とりどりの液体を混ぜたり運んだりと忙しそうな伊藤さん。これがゴム風船の材料なんだそうです。
保温室の火加減の調整や風船の元となる液体の硬さ調整はどうやら感覚でやっている様子。ここまでの感覚を身につけつるには、相当な修行を積んだのだろうな…と興味津々で見ていると、伊藤さんから「やってみますか?」とのお声が!
マルサ斉藤ゴムでは、定期的にゴム風船手作り体験を開催しているわけではありませんが、週末など伊藤さんのお休みを利用して、今後体験を開催できればと考えているそうです。
ということで、編集部メンバーも早速ゴム風船手作り体験に挑戦することに!
ゴム風船手作り体験で職人の技を体感!
これがゴム風船作りに欠かせないガラス製の型。工場の中にはさまざまな大きさ、形の型が所狭しと並んでいました。一番大きい型は50cmほどもあるそうです。
▲この型が約30㎝。膨らむと直径70㎝ほどの風船になる
型を風船のもとである液体のプールにつけて乾かし、型から外すのが、風船作りの大まかな流れ。
まずは型がいくつも並んだ木の枠を機械にセットします。
型についたメモリを目安に液体プールに浸けていきます。
型にセットするだけなのに、かなり緊張!
セットしたらハンドルを回して徐々に型を下ろしていきます。ハンドルを回すだけなのになんだかもたもた…。
普段の生活の中にない動きなので、かなりぎこちない手つきになってしまいました。
伊藤さんのサポートのもと、やっとの思いで引き上げると、早くも風船らしさが!
液体に浸けるという一見簡単な作業ですが、浸けるスピードを間違うと、風船に気泡が入ってしまうこともあるんだとか。手作業だからこその難しさ、職人の感覚に驚きと感動の連続でした。
その後、先端に気泡がないか、ゴミが混じっていないか、細かなところを目視で確認して、乾燥させます。
液体が垂れてきてしまうので、20秒くらいで逆さまにして、また20秒後に逆さまにして…という作業を2回ほど繰り返します。
ひっくり返すだけの作業も、初めてだと手間取ってしまって大変。時間がかかってしまうと、形が変になったりダマになってしまったり、品質にも影響しかねません。こういった何気ない作業をスムーズに淡々とこなす伊藤さんの姿に、職人を感じました。
私たちの風船も、液が垂れて少し不恰好になってしまいましたが、伊藤さんも見習いの頃はそんな失敗も多々経験してきたと言います。
そんなお話を聞いていると表面も固まったので、ゴムを固める凝固剤に浸けていきます。
これがゴムをしっかりと固め、次につけるゴムを吸着してくれる働きもします。
浸けたらまた温室へ。今度は10分ほどじっくり乾かします。
また運ぶのに手間取ってしまいましたが、伊藤さんは普段、ほぼ一人で同時に8台の機械を使い、10〜12回転させて風船を作っているそうです。1台でも大変なのに、8台を10〜12回転もさせるなんて、すごい…。固まったら、また液体プールへ。今度はゆっくり時間をかけて浸け、引き上げます。
そして、2回目は特に入念に、気泡やゴミがないか細かくチェックしていきます。
これで浸ける作業は完了。30分ほど乾かすと、見た目がだいぶマットに変化していました。
続いて、風船の口のところをクルンとさせる作業です。この作業は口巻き機という機械で行います。
モーターで回る棒の間に風船型を通して動かすと、吹き口部分が見事にクルンとなりました!
そして、粉をつけたら風船はほぼ完成!
最後に、型から風船を外して完成です!
手のひらを上手く使って出来上がった風船を型から外します。型にビタっとついているので、外すのにちょっと力が必要。
仕上げに風船に粉をつけます。使うのは、セリサイト(化粧品のファンデーションの元)という粉。こうすることで、風船がくっつかなくなります。
無事に手作り風船の完成!
伊藤さんと一緒にできたての風船を膨らましてみました。
ちゃんと風船になっています!
自分で作ったと思うと、風船が可愛く思えてきました。手作りだからなのか、よくある風船に比べてとっても分厚く、頑丈そうです。大した作業はしていないのですが、なんだかやりきった満足感があります。
また、浸ける、乾かす、浸ける、乾かすの連続で、作業としては思っていた以上に単純でしたが、職人の感覚や素早い動きが求められる部分が多く、本当に奥が深かったです。
「機械にしてしまえば楽チンなのに…と思うこともあります。機械なら正確に早くできるので。でも、ここは手作業でやっている唯一の工場なので、たくさんの人に体験してもらいたいと思っています。」と伊藤さんは言います。
手作りが絶対!という職人気質の方かと思いきや、意外にも、効率や利益追求に比重を置いていらっしゃる様子でした。こうやって異業種やよその土地から新しい人材がやってくることで、仕事のやり方もどんどん変わっていくのかもしれませんね。
「今後は週末の体験もどんどん開催していくかも」とのことだったので、やってみたい方は楽しみにしていてください!
(聞き手・佐野明子/文・江戸しおり)
伊藤さんの経歴や、銚子移住、マルサ斉藤ゴムに入社した経緯、銚子への思いなどをたっぷりインタビューした記事はこちら→日本で唯一の手作りゴム風船工場は銚子にあった!未経験から風船職人になった伊藤貴明さんに会ってきました
- マルサ斉藤ゴム
- 銚子工場千葉県銚子市君ヶ浜8741