人口減少が続き、学校の統廃合も相次いでいる銚子市。そんな中、廃校を利用してスポーツ合宿施設を立ち上げた男性がいます。
「スポーツを通して銚子市を活性化させたい」
そんな思いで日々精力的に活動している小倉和俊さんにお話を伺いました。
・和光設備株式会社 代表取締役社長
・NPO法人 銚子スポーツコミュニティ 理事長
・株式会社 銚子スポーツタウン 代表取締役銚子生まれ銚子育ち
高校卒業後、大学進学に伴い市外へ
大学卒業後2年間県内で働いた後、家業の和光設備(株)を継ぐために帰郷
現在は家業と並行して、イベントや合宿施設の運営など、スポーツを通して銚子市を活性化するために精力的に活動している
廃校を改装したスポーツ合宿施設『銚子スポーツタウン』
2010年に廃校となった銚子西高校(銚子市野尻町)。その校舎を改装して、2018年春に『銚子スポーツタウン』がオープンしました。
両翼95mの大きなグラウンド『くろしおかもめ球場』、野球用室内練習場、複数の防球ネット、最大5種目同時開催可能の体育館など、多種多様な種目、さまざまなシチュエーションに対応できるスポーツ合宿施設です。
▲球用室内練習場
これまで、市内で合宿を行おうとしても適切な宿泊施設がなかった銚子市においては、スポーツ施設と宿泊施設が一体になった画期的な施設です。
「食事はスタッフが作っていますが、美味しいって評判。食材などの仕入れは、ほぼ銚子の業者を使っています」と小倉さん。
実は、積極的に地元の業者を使うことも小倉さんの戦略の一つ。銚子スポーツタウンは、スポーツを通して銚子市を活性化することを大きな狙いとしているのです。
『NPO法人銚子スポーツコミュニティ』設立
小倉さんは、銚子で50年続く水道工事店の経営者でもあります。人口減少は顧客の減少に直結するため、銚子の衰退には大きな危機感を抱いたと言います。趣味の自転車仲間の中にも経営者が多く、仲間うちでも危機感を募らせていたそうです。
その頃、小倉さんはある新聞記事によって『スポーツコミッション』(スポーツと地域資源を組み合わせて地域活性化につなげる取り組み)を知り、スポーツによる地域活性化に関心を寄せるようになります。
しかし、当初は自分が積極的に行動を起こす予定はなかったそう。
「誰かがやってくれたらいいのにとは思っていたけど、やりたいと思ったことは一切なかった」
それでも、スポーツ大会を開催した際の経済効果を独自に試算したり、市役所や商工会議所、観光協会など銚子の要職につく関係者たちに、スポーツコミッションの必要性を説明してまわったりするうちに状況は変化し、ついに2014年春に『NPO法人 銚子スポーツコミュニティ』設立に至りました。
「メンバーは趣味の自転車仲間が中心。スポーツで銚子を活性化させようってことで、みんな共鳴してくれた」
「まずサイクルステーション(サイクリストが気軽に立ち寄って、休憩することができる施設)の設置、それからサイクリストが訪問できる場所をホームページで紹介したりしました」
銚子を訪れるサイクリストを消費活動に結びつける第一歩でした。
銚子の景色・食×スポーツ『犬吠埼エンデューロ』&『銚子イイ!グルメライド』
サイクリング大会が開催されれば、参加者の食事、宿泊、交通などで大きな経済効果が期待できます。しかし、銚子ではサイクリング大会が開催されていなかったため、関係各所との調整や調査の結果、小倉さんたち自身でサイクリング大会を開催することとなりました。
第一回は、2016年5月に開催された『犬吠埼エンデューロ』。決められた時間内の周回数を競うレースです。同時に、銚子の風光明媚な景色を楽しめるのも魅力。
「これまでの銚子のスポーツイベントって、やっただけで結果がわからない。なににも結びついていなかった」と感じていた小倉さんは、さまざまな大会の参加者の交通手段、宿泊、食事の金額などを調査しました。
「日帰りのお客さんだったら一円も使わない人もいるし、昼ごはんを食べてもせいぜい千円、でも宿泊すれば一万円。単に参加者が多いって喜んでいるのはビジネスじゃないんです。大会の参加者を多くするよりも宿泊率を高くしたほうが効率がいい」
そこで、宿泊率を高めるために開始を朝早くに設定したところ、参加者の5割が宿泊するという結果になりました。
犬吠埼エンデューロは一昨年までに3回開催され、2019年からは『銚子イイ!グルメライド』が開催されています。
グルメライドは、途中に設置されたエイドステーションで、休憩しながら銚子の美味しいものが食べられるのが特徴。
「素材が美味しいからね、銚子は。それにエンデューロは競技性が高くなっちゃって、集客が伸び悩んでいました。エンデューロにこだわっているわけじゃないので、地域活性化を考えたらグルメライドのほうが人が集まるだろうと変更しました。昨年は950人来てくれたので、地域に影響は与えたと思う」
今年はスポーツタウンでの前夜祭を企画するなど、さらに銚子に経済効果をもたらす仕掛けを考えているといいます。
2020年の開催は5月10日(日)。すでにエントリー受付が開始しています!
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苦労の連続でも『銚子スポーツタウン』の運営を担った理由
犬吠埼エンデューロ初回開催の少し前、小倉さんにある出会いがありました。銚子市出身の元プロ野球選手、木樽正明さん。銚子商業高校時代に甲子園の準優勝投手となり、プロ野球界でも活躍した大スターです。木樽さんもまた、スポーツ(野球)で銚子を元気にしたいと、子どもたちへ技術指導、野球教室の開催など、地元で精力的に活動しています。
そして、当時の銚子市観光協会会長も交えて3人でスポーツや銚子への思いを語り合ううちに、廃校になった旧銚子西高校の校舎を合宿施設に利用できるのでは、という話になったのです。
「銚子にはスポーツ合宿向けの施設がなかった。みんな宿泊施設って一律に考えているけど、本当はジャンルがある。観光ホテルと旅館と民宿と、料金形態も目的も違うから。旧銚子西高校の校舎ならグラウンドも目の前だし、ここでやったら面白いだろうなって思った」と当時を振り返る小倉さん。
その数日後、早速木樽さんと校舎を見に行くと、「銚子商業よりも良い芝だ」と木樽さんのお墨付きももらい、「これならいける」と合宿施設の計画が一気に現実味を帯びてきます。
しかし、その後すぐに企画書を作った小倉さんですが、「やりたいって思ったことは一切ない。誰かがやってくれたらいいのに」と、まだ自身が運営に携わる気持ちはなかったそうです。
それでも最終的に小倉さんが先頭に立つことになった理由は「これを逃したらもう銚子にはチャンスがないと思った」から。
「2018年の出生人数は約200人。単純計算したら80年後には銚子の人口は2万人を切っちゃうのに、そのままにしていて良いのか、子供たちに申し訳ない。将来の子供達のためになんかやってあげなきゃって思う」
NPOのメンバーの中にも反対する人がいる中、地元のために、次の世代のためにと、小倉さん自身が銚子スポーツタウンの運営をすることを決めた瞬間でした。
そこからは、活用する予定だった合宿所が耐震の関係で解体を余儀なくされたり、市役所との調整がうまくいかなかったり、苦労の連続だったそうです。
しかし、「銚子で誰もやってないことだから、うまくいってたら笑っちゃうよ(笑)うまくいくことなんかない。成功したと思ったらそれは失敗の前日だよ。全部うまく行って桃源郷のような生活するより、うまくいかなくて噴煙あげてる方が面白いかもしんないね」と小倉さん。
現在も苦労は絶えないそうですが、施設の運営は順調で、取材したその日も埼玉県からたくさんの学生がやってきていました。
「選手はスポーツタウンに、父兄も銚子市内に宿泊していて、市内の経済にも影響を与えている。食材は地元業者を使ったり、色々なところで銚子市内の活性化に繋がっていると思う」
また、銚子スポーツタウン主催の野球大会や小中学生向けのバスケットのクリニックなど、さまざまなイベントも開催しています。
サテライト施設『さるだ学集館』もオープン!
11月には、銚子スポーツタウンの付近に『さるだ学集館』がオープンしました。
2017年に廃校となった猿田小学校を活用した施設で、研修やオフィスに利用されています。
「銚子スポーツタウンだけでは施設が足りない時があるから、さるだ学集館の体育館も活用して施設の拡大を図りました。研修とかでも使えれば、さらに銚子の宿泊者数を伸ばせるかなと。これまで、旅行会社による肝試しの企画やYouTuberの撮影でも使ってもらっています」
「空気だって気候だって全部好きです」小倉さんの銚子への思い
最後に、銚子の好きなところ、嫌いなところを伺いました。
「生まれたところだから全部好きだよね。空気だって気候だって。それは本能的なもんじゃないのかな。景色だと、犬吠埼と屏風ケ浦。あとは川口町から見る銚子大橋とか」
「良いところはたくさんあるけど、温泉だけでも気候だけでも食だけでも、1つだけじゃ他には勝てない。だから組み合わせだよね。銚子スポーツタウンがあって、この時期でも暖かいから埼玉から銚子に来てくれるように」
嫌いなところは、「ワンチームになってないよね。いろんなところで」と小倉さん。
「一箇所がよくなれば周りもよくなると思う」と、銚子スポーツタウンの発展を銚子の活性化につなげるべく、これからも尽力していくと話してくれました。
(聞き手・佐野明子、地下玲菜/撮影・青柳愛/文・江戸しおり)
銚子スポーツタウン
千葉県銚子市野尻町1600番地
0479-30-1800
https://choshi-sportstown.com/