「お米の可能性を探っていきたい」新商品を次々生み出す、お米とせんべい生地店5代目の挑戦【根本商店・根本吉規さん】

根本吉規さん(41)
(有)根本商店 専務取締役
銚子生まれ銚子育ち。
大学卒業後に帰郷し、家業である煎餅生地づくりなどに携わって約20年。最近では新商品の開発も積極的に行っており、受賞経験もあり。

魚、キャベツ、醤油…。さまざまな食材が有名な銚子ですが、『おせんべい』も忘れてはいけません。

銚子はお米もよくとれますし、醤油にいたっては全国シェア15%以上を誇ると言われる一大産地。そのため古くからおせんべい作りが盛んで、特に『ぬれせんべい』は銚子を代表するお土産の一つです。

今回お邪魔したのは、煎餅生地販売をする(有)根本商店さん。これまでとは違った新しい煎餅、新しい食材としてのお米を追求した新商品を次々に生み出す根本さんに、開発の裏側などをたっぷり伺いました。

大学卒業後すぐに帰郷して家業に従事することに

(有)根本商店は、根本専務が五代目。明治32年創業の老舗です。

「三代目から米や煎餅生地販売を始めたと聞いています。その前はうどん屋さんだったり(いろいろ)やっていたみたいです」

仕事が始まるのは朝6時。機械を温め、7時にはしんこもち(銚子市周辺で作られる伝統的なお餅。棒状の形が特徴的。)をふかし始めます。8時頃にはパートさんも合流しておせんべいを成形し、乾燥機に入れるところまでが午前中の仕事。乾燥には2〜5時間もかかるそうです。その後、寝かせて箱詰め。さらに、燃料やお米の配達も行っているので、作業の合間にそれらをこなすハードなお仕事。


▲工場の様子。さまざまな種類の大きな機械が並ぶ。

「子供の頃は手伝いをするのはしょうがないですけど、朝も早いし休みも決まっていないし、家族は働きづめで旅行とかにも全く行かなくて。おじさんに連れて行ってもらったりしていました」と子供の頃を振り返る根本さん。
「そういう生活をしていると、勤め人、サラリーマンに対する憧れもあったんですけど、
手に職をということで大学は建築の方に(進みました)」

高校卒業後は信州大学で建築の勉強をしていましたが、その当時、銚子電鉄のぬれせんべいが大ブームになったこともあり、卒業後はすぐに帰郷。それ以来約20年間家業に従事してきました。

「自分の中ではいつかは戻ってこないといけないとは思ってたけど、ブームのおかげというかせいでというか、戻ってきました。内定ももらっていたのですが、それも蹴り…。大学に行けたのも、親が働いてくれているお陰なので『戻ってこい』って言われた時には覚悟を決めて(帰ってきました)」

銚子のせんべいを名だたる名物にしたい

「せっかく戻るなら銚子のせんべいを全国に名だたる名物にしたいなって思いはありますよね」との言葉通り、根本さんはここ数年毎年新商品を生み出しています。中にはフードアクションニッポンアワード入賞や、クールジャパン賞を受賞したものも。

どのような商品なのか、想いや裏話をたっぷりお伺いしました。

市内7業者を食べ比べ!『日本一の銚子しょっぱいせんべい食べくらべセット』

2015年に販売が始まったこちらのセットは、銚子市内の7業者のおせんべいを詰め合わせたもの。

「銚子に帰ってきてから15年くらい。それまでは作業をこなすことで精一杯で、他のことはあまり考えられないくらいだったんですけど、震災(2011年の東日本大震災)あたりから意識が変わってきたかな。震災で消費が冷え込んで、製造卸業務だけでは大変だなというのがありましたし、ぬれせんべいブームと言っても消費量はだんだん減ってきているんですよね」
そこで、「もっと銚子のせんべい文化を発信」して新しいターゲットを獲得すべく、まずは「銚子のせんべいを知ってもらう」ために『日本一の銚子しょっぱいせんべい食べくらべセット』を発売。

「ぬれせんべいって、ここのは硬い、ここのはしょっぱいな、甘いな、染み具合がちょうどいいなとか、個人の好みの違いがあるので(食べくらべて)行ったことがないお店に行ってみよう、みたいになれば」

パッケージは醤油樽をイメージ。担当した東京のデザイナーさんが銚子駅を降り立つと、最初に目に入ったのが醤油樽のオブジェでした。さらに醤油の匂いも。そんなことから「醤油樽でいきましょう!」と提案されたそうです。

売り出す際には、イオンモール銚子で手焼きせんべいワークショップも実施しました。子供が喜んでくれるのはもちろん、大人からも
「おせんべいの材料はお米だけなの?」
「小麦粉とかは使っていないの?」
「うるち米と餅米の違いは?」
などさまざまな質問が飛び交い、盛り上がったそうです。

以来、ワークショップも時々開催するように。もっと銚子のぬれせんべいを知ってもらいたい、「おせんべいは何からできているの?」の疑問に答えたい、との思いで継続しているそうです。

そして『日本一の銚子しょっぱいせんべい食べくらべセット』は『フードアクションニッポンアワード2016』(農林水産省主催)で入賞しました。

「地域をまとめて一つの商品にしているものは珍しかったので、大賞もいけるんじゃないかと思っていたんですけど入賞でした」

少々がっかり気味の根本さんでしたが、応募数1008産品の中から入賞100産品に選ばれるのは大快挙。

購入はこちらのページでも可能です。銚子のぬれせんべいを食べくらべてみては?
http://www.nemoto.ecweb.jp/monogatari/tabekurabeset.html

自宅で『かんたん手焼きせんべいの素』

「おせんべいは何からできているの?」の疑問に答えたい、を形にした『かんたん手焼きせんべいの素』。オーブントースターで5〜6分焼き、醤油をかけるとおせんべいができる、楽しい商品です。

以前からネット販売はしていましたが、検索した上で説明文を読んでもらえるネット販売に比べ、小売はハードルが高め。しかし銚子セレクト市場で販売したところ、1週間で4〜5個販売することができました。

「当時は今のようなパッケージじゃなかったから、どんな商品なのか何なのかもわからないし、それでも売れたのにはちょっとした手応えを感じましたね」と根本さん。

しかし、ブランディングには苦労したそうです。

「当時のパッケージは、タイトルもただの『せんべい生地』だったので、わかりづらい。ネットでは女性のお客様が多かったので、デザイナーさんも絡めて、女性目線で買いやすいパッケージを目指しました」


▲『かんたん手焼きせんべいの素』の新しいパッケージデザイン

こちらは『おみやげグランプリ2018』(主催:ふるさと祭り東京実行委員会、後援: 国土交通省観光庁ほか)でクールジャパン賞を受賞したほか、『日本全国おみやげ図鑑 東日本編』(フレーベル館)の『外国人に喜ばれる日本のおみやげ』にも収録されました。(http://choshi-flat.com/20190223/article-88/ ‎)

「一次審査を通過したって連絡が来て二次審査に商品を送ることになりばしたが、実はあんまり期待してなかったんです。というのも、本当にこれ(商品そのもの)だけしか送らなかったから。焼いたお煎餅も送れば、比較したり食べたりできるって後から思いついたんですけど(笑)」

しかし、蓋を開けてみれば結果はクールジャパン賞受賞!

「当時はパッケージを今のものに変えた時で、バイヤーさんにも紹介している時期だったので励みになりました。その頃はクールジャパンって言葉が流行っていたので、嬉しかったです。日本のお菓子として、外国人の方にも紹介したいって意味合いで受賞できて良かったです」

なんとその数ヶ月後にはヒューストンからオファーがあり、海外でも手焼きせんべいワークショップを開催。

クラッカーの感覚で、大人も子供も抵抗なく楽しんでいたようです。

そして実は、根本商店さんと地元のお醤油屋さん、銚子市観光協会によるコラボ商品『銚子手焼煎餅セット』もあるんです。

セットの中には、お煎餅の生地・お醤油・ハケ等が入っており、自宅でぬれ煎餅が簡単に作れます。

銚子市観光協会、地球の丸く見える丘展望館、銚子ポートタワー、海風などで販売中です。

詳しくはこちら→‎お土産にぴったり!2つの新しいお煎餅が銚子で誕生しました!

お米の革命!?1分でできる新しい食材「コメの実」

最後にご紹介するのは、根本さんが「ものすごく想いが詰まっているんです」と力を込めて話す「コメの実」。

・コンセプトは「ライスレボリューション」「カフェに出せるおつまみ」
・インスタントラーメンより早くできる、手軽な新しいコンセプトのお米の食材
・無添加、グルテンフリー
・インターン生もプロモーションに協力
など、気になるポイントがたくさんある商品です。

「『かんたん手焼きせんべいの素』を販売するなかで、お客さんから『5分も焼くの?』『オーブントースター持ってないよ』と要望等あったので、(コメの実のもととなった生地を)たまたま電子レンジにかけてみたら1分でできたんです!ヒューストンにも持って行ったら、向こうの奥様方には『あらすごい』『早くこっちでも売りなさいよ』くらいに言われちゃって。だからパッケージがアメリカっぽいんです。ちょっと意識して(笑)」

元々は油で揚げるおせんべいとして作っていた生地を、粉の挽き方、ふかし方、より膨らみやすいように厚さも調整してできた『コメの実』。名前の通り”米のみ”を使った無添加おやつで、小麦アレルギーの方も食べられるグルテンフリーです。

実はコメの実には、大学生インターンのアイデアもたっぷり詰まっているんです。2018年に、銚子円卓会議(まちづくりに関わる多様な主体が連携した地域づくりプラットフォーム)の事業の一つ『地方創生インターンシップ”DELKUI”』によって銚子を訪れたインターンの女子大生が、約1ヶ月間、コメの実のプロモーションに携わりました。

「20歳も離れていると全然思考が違くて、女の子だったし、慣れるまではお互い遠慮しがちな部分もありました」
「最初に『コーヒーショップに売りに行きましょう』って提案された時は、なんで?って思いましたね(笑)」

その時の根本さんの中では、コメの実はあくまでおせんべい。しかしインターン生は「カフェに出せるクラッカー」として、「代官山のカフェに置けるような商品にしましょう」と全く違った視点でアプローチ。

そのコンセプトに向かって、パッケージもカフェに馴染むデザインに。さらにヒューストン風味も加わって、現在のパッケージが完成しました。

コンセプトは「せんべいレボリューション」から「ライスレボリューション」。おせんべいではなく、「お米を使った新しい食材です」と根本さんは強調します。

「お米って糖質制限ダイエットとかで太るイメージがあるじゃないですか。おせんべいもしかり。(そうではなくて)ちょっとサラダに散らしたり、お米を新しい食材として捉えてほしい」
「オリーブオイルで仕上げたらワインにも合うし、いろんな提案ができる商品なんです」
「お米を炊くより、パスタを茹でるより、インスタントラーメンよりも早くできますし」
「カロリー高めなのを逆に利用して、少なく食べても栄養ばっちりみたいな」

アレンジは無限に生まれそうなので、自分なりのコメの実レシピを考えてみるのも楽しそうですよね。

地元・外川/銚子への想い

根本商店があるのは銚子市外川町。根本さんはこの地で生まれ育ちました。銚子電鉄の終着駅があり、海と坂道と昔ながらの街並みが特徴的な場所。根本さんは地元にどんな想いを抱いているのか伺ってみました。

「外川(とかわ)は生まれ育った街なので大事です。都会から来てこっちに住んだらすごく不便と感じるかもしれませんが、自分にとってはこれが普通なので。外川ってリトル銚子ですよね。漁業、農業、商売をやってる人がいて、年配の方が多くて、銚子の縮図みたいな町。昔気質な人も多いですよね」
「子育てもそうだし、子ども達が安心して遊べる町だと思うので、また子供たちがたくさんいる街にしていかないと、と思います」

また、銚子全体については「好きなところは、みんな優しいところ。他の地域の方からすると、怒られてるんじゃないかなって思うくらい人のところにズカズカ入り込んでくることもある一方で、人見知りでもある。いろんな個性的な人がいっぱいいるので、好きです。原点ですね」
と話す一方、
「このまま寂れさせていくわけにはいかない、どうにかしてもっと人に住んでもらわないと」と危機感も感じているそうです。

「今までの悪いところのひとつに、現状維持を望んでいるところがある。『これでいいべよ』『それってやる意味あるの?』と。変化を望む、進化し続けていかないといかないですね」とのこと。

また、「銚子以外にも、過疎化に悩んでいて、且つ住みやすく風光明媚な自治体さんはたくさんあると思います。その中で、銚子のストロングポイントをどう出すかが大事」と根本さん。

根本さんの考える銚子のストロングポイントを尋ねると「安直ですがやっぱり海。犬吠埼灯台と、その下の海の広がりですかね。磯遊びもできますし」と答えてくれました。

「銚子は農業漁業が盛んで食材が豊富なので、例えば余剰生産物を備蓄用に加工したりして、災害時の食の防災基地にするのも戦略の一つ。せんべいなんて特に保存食なので、保存がきいて、開けたらすぐ食べられる備蓄食みたいなものを作れたら」と考えることもあるそうですが、今後については
「来年を考えるのが精一杯なので、遠い先のことよりも目の前の課題を一つ一つクリアしていくこと」と笑っていました。しかしこれからも「お米の可能性を探っていきたい」と話してくれました。

銚子といえば『ぬれせんべい』と思っていましたが、その前段階の煎餅生地やお米にも、たくさんの可能性があることがわかりました。今後さらに銚子の新しいお土産が登場したりするのでしょうか。根本さんの活動に目が離せません!
(聞き手・佐野明子,地下玲菜/撮影・青柳愛/文・江戸しおり)

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