銚子電鉄は、銚子駅から外川駅(ありがとう 外川駅)までのわずか6.4kmをつなぐ市民の足であり、観光客にも人気のローカル鉄道ですが、その経営状況は思わしくありません。
しかしこれまで、度重なる廃線の危機を、斬新なアイデアと全国からの支援によって乗り越えてきました。まさに、市民の愛、全国のファンの愛、そして社員たちの愛によって支えられている銚子電鉄。そんな銚子電鉄に日々寄り添っている女性がいます。
それが、銚子電鉄で初めて、そして唯一の女性車掌である袖山里穂さん。銚子電鉄への思いや知られざる車掌さんの毎日についてお話を伺いました。
2014年1月 初めての女性車掌として銚子電鉄株式会社に入社。
ご縁に恵まれて入社した銚子電鉄
ーー入社のきっかけを教えてください。
銚子電鉄にはこれまで女性車掌がいなくて。入れよう、という話になった時に、銚子生まれ銚子育ちで、観光アテンダントをやっていたこともあり、知人から声をかけていただきました。
最初は、銚子電鉄での仕事は「どんなもんだろう?」という興味が大きかったですね。
ーー観光アテンダント時代も車内で案内していたので、不安はなかったのでは?
以前は案内役でしたが、入社するとなったら立場が全く違うので、自分が銚子電鉄自体に関わることが想像できなかったです。
入社した当時は全てが「なんだこれ?」でしたね(笑)それまでは電車がどのように動いているのか、運行の仕組みなどは考えたことがありませんでした。でも、実際に業務に携わっていると、改めて、人間が動かしているんだなという実感がありました。
▲大手鉄道会社はこの「遠方制御盤」を操作することで自動でポイント切り替えや信号の操作ができるものの、銚子電鉄では最終的には手動操作が必要。
わからないことばかりだったり、いろいろなものが古かったり、戸惑いもありましたが、想像以上にやりがいがあり、最初から楽しく仕事ができました。
定期の日付まで覚えている、子供たちからは名前で呼び捨て…乗客との距離の近さが嬉しい
ーー袖山さんの1日を教えてください。
6:30には出社して、すぐに乗務を開始します。車内では切符の販売、ドアの開け閉め、無人駅でのきっぷの集札、忘れ物確認、車内清掃をします。
ーー朝早いんですね!しかも清掃まで。袖山さんはいつも車内を走り回っていて、忙しそうだなと思っています。
銚子電鉄では車内清掃も全て車掌が行うんです。
検札も、自動改札がないのでもちろん全て手で。1つ1つ自分でやっていくのは楽しいですが、混んでいるときは結構大変です。検札の時、「Suicaをタッチしたから」と言われることも多いんですが、その都度「Suicaは使えないんです」って説明しないといけないですしね。
ーー短い区間でやることが多いですよね。混雑するときは何人くらいのお客さんがいるんですか?
1車両にぎゅうぎゅうで130人ほど乗れるのかな。そこまで混むことはなかなかありませんが、GWのときなんかは百数十人は乗っていると思います。
短い区間の中で切符販売、案内など、やることはたくさんあります。観光の方は周遊したりもするので、往復切符や弧廻手形の説明もしますが、100人でも数人でも、お客様への対応はいつも同じにしなければなりません。普段は10人で終わることを100人分するのは大変ですが、基本的には毎日楽しく乗務しています。
ーー具体的にどのようなことが楽しいですか?
やっぱりお客様とのやりとりですかね。いつも乗る方の顔はもちろん、定期の日付まで覚えているんです。
地元のお客様と仲良くなったり、通学で利用している小学生に懐いてもらったりするのは、普通の電車ではなかなかありませんよね。
最近は小学生に「里穂」って下の名前で呼ばれているんです。そのやりとりを見て他のお客さんが笑ったり。そういうことが嬉しくて楽しいです。
社員一人一人が銚子電鉄存続のために
ーー銚子電鉄はさまざまな取り組みを行っていますが、袖山さんはそれについてどう思いますか?
仕事は仕事って割り切ってる社会人は多いと思うんですが、銚子電鉄の社員は、どんな部署のどの位置の人も、それぞれが銚子電鉄存続のために頑張っていると感じます。
普通の社会人だったらやらなくていいこと、時にはアホらしいこと、大丈夫なの?って思うようなこともたくさんしますが、全ては銚子電鉄存続のためなんです。社長も自ら運転士の免許をとったりして、とても頑張っているんです。
そういう人たちの姿を見ていると、自分ももっとやることがあると感じます。
ーー社員全員が銚子電鉄を愛しているんですね。
もちろん愚痴を言い合うこともありますよ。(笑)
でも、本当に嫌だったら辞めちゃったらいいじゃないですか。それでも銚子電鉄が好きだから、ずっとこのまま走り続けてほしいからみんな頑張っているんです。
ーーお化け屋敷、バルーン&イルミ電車など銚子電鉄ではこれまで色々な取り組みを行ってきたと思いますが、袖山さんはどの取り組みが一番好きですか?
うーーーーーーん。どれだろう?(笑)
イルミネーション(銚子電鉄の車内を社員の手で飾り付けたイルミネーション電車)は大好きですね。
お金を払って業者さんにやってもらえばもっといいものができると思いますが、お金をかけず、社員が手作業でやったので。
ーー銚子電鉄らしくて素敵だと思います。
運転だけしていればいい、事務だけしていればいいのが普通かもしれませんが、銚子電鉄は、そんなことまで社員がするの?ということをたくさんやっていますから。(笑)
聞かずにはいられません!話題沸騰中の「まずい棒」
ーー最近一番の話題といえばやっぱりまずい棒ですよね。
最初は著作権とかもろもろ、「大丈夫なのかな?」って不安に思いました。そもそも、社長はいつも面白いことを言っているので、冗談か本気かわからなくて、どこまで信じたらいいのか…という感じでした。
ーー本当でしたね(笑)社内で反対意見はなかったですか?
「面白いことやるなー」「そういうの、嫌いじゃないよね」という人が多くて、意外とすんなり受け入れられていました。
ただ、もっとこじんまりやると思っていたので、まさかこんなにテレビに取り上げられたり、話題になったりするとは思いもしませんでしたが。
ーープロモーションムービー(9月公開予定)では「きっぷ売りの少女編」で少女役も熱演していましたもんね。
恥ずかしかったです!
ーー中学の時は演劇部だったんですよね。その血が湧きましたか?
…特に!(笑)
むしろ、演劇部だったのに一番グダグダだったかもしれません。撮り直しも何回かしましたし。
ーー仕事終わりに撮ったんですよね?
そうなんです。他の社員もお客さん役で出ていましたが、みんな裏では文句を…。文句を言いながらも頑張っていました!ということにしてください(笑)
ーー(笑)「まずい」という名前が話題ですが、実際の味は?
実際は美味しいです!
PV撮影で食べましたが、今は発売したらすぐ売り切れてしまって手に入らないので、社員なのにあれ以来食べられていないんです。
▲そんな袖山さんのために、「まずい棒」を用意!みんなで一緒にいただきました。
「うん、美味しい!」
ーー今後、まずい棒で銚子電鉄はどうなりそうですか?
大事なのは話題性だと思います。売上よりも、「まずい棒」を通して銚子電鉄に興味を持ってもらって、いろいろな取り組みを知ってもらいたいです。
リピーターまではいかなくても、一度は銚子電鉄に乗りにきてもらえたら。
あとは、注目されているうちにまた新しい企画も打ち出して、銚子電鉄、頑張ってるなって思ってもらえたらいいですね。
ーー今後もまずい棒みたいな商品は誕生しそうですか?
社長のアイデア次第では…。多分あるんじゃないかな?
社長に対しては「どこまでもついていくので、これからも面白いことをやって頑張りましょう!」と言いたいです。
「定年まで銚子電鉄で働きたい!だから続いてもらわないと困るんです。」
ーー袖山さんの銚子電鉄への愛をひしひしと感じます。特別ここが好き!というのはありますか?
仲ノ町駅ですかね。ここから電車が動いているので。朝と夜の表情もまた違って。隣接する本社のレトロな感じも大好きです。見るたびに、「ここで勤めてるんだ」って嬉しくなっちゃいますね。
▲仲ノ町駅構内 銚子電鉄の乗車には切符が必要なので、有人駅にはこのような出札口がある。
▲出札口の内側 左手には駅ごとに切符が積み上げられている。
▲レトロな雰囲気が漂う銚子電鉄の本社。
ーーあの雰囲気の建物はなかなかないですよね。今後銚子電鉄にはどうなって欲しいですか?
とにかく続いて欲しいです。毎日たくさんの方に乗ってもらって黒字化するというのは、正直難しいと思っています。だから、それは無理でも、できる限り長く続いてほしいなと。
ーー銚子電鉄での夢はありますか?
定年まで働くことです!あと30年くらい。だから銚子電鉄にはそれまで続いてもらわないと困るんです。
車掌は体力仕事なので、ずっと続けるのは難しいのかな。40くらいまで…体力が続く限りやりたいので、そのあとは職種が変わるかもしれないけど。
ーー運転手になりたいという気持ちはないんですか?
最初は運転手もやってみたいと思ってましたけど、勉強が苦手だから(笑)
でも、夢なら何を言ってもいいですもんね。あと30年あるし。運転手にもなってみたいです!
車掌は運転できないですけど、運転手は車掌もできるので、どっちもできるといいなって。地元の乗客に愛される人気女性車掌・袖山里穂さんに会いに行ってみませんか?
筆者も銚子電鉄に乗ると、笑顔でお客さんの対応をする袖山さんをよく見かけます。袖山さんがおっしゃるように、学校帰りの小学生に話しかけられていることも多く、見ているとこっちまで楽しくなってしまうんです。
袖山さんは銚子のことを、「都会の人からしたら何もないと思われるかもしれないけど、素敵な街並みがあったり、いいところもたくさんあると思う。」「これからすごく栄えるなんてことはなくていいけど、今の銚子を大切に、これからもこのままであってほしい」と言います。
銚子電鉄も、次々と斬新な企画を打ち出し、変化を恐れずに突き進むその根底には、銚子電鉄を存続させたいという社員の強い思いがあるようです。
新しいけど懐かしい、そんな銚子電鉄に乗って、袖山さんに会いに行きませんか?
(聞き手・佐野明子/文・江戸しおり)
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