銚子名物の伊達巻はまるでプリン?その道30年の職人の素顔とは【あづま寿司 加瀬充規さん】

お正月に欠かせない料理の一つ、伊達巻。
簡単に言えば、魚のすり身入りの巻いた卵焼きのことですが、実は銚子の伊達巻はちょっと変わっているんです。

こちらが銚子名物の「伊達巻」。

ぷるんとした見た目はまるでプリンのよう。「漁夫のプリン」という別名もあるんです。

普通の伊達巻と違って魚のすり身が入っておらず、裏ごしをしないことでこれだけの弾力が生まれるんだそうです。

今回は、銚子名物の伊達巻を作り続けて約26年。あづま寿司の加瀬充規さんにお話を伺いました。

加瀬充規さん(49)
あづま寿司 2代目
銚子生まれ銚子育ち。
高校卒業後数年修行をした後、実家の寿司店を継いだ、この道30年以上のベテラン寿司職人。

あづま寿司の伊達巻のこだわり

銚子名物の伊達巻の発祥は、東芝町にある寿司店「大久保」。現在は市内7軒の寿司店で銚子風の伊達巻が作られています。

あづま寿司で伊達巻を作り始めたのは、充規さんの代になってから。

「銚子の伊達巻を全国に広めたいということで、銚子の寿司商組合の親方にレシピをいただいて始めました」

こだわりはなんといっても卵。

「千葉県産の、生で食べても美味しいものを選んで使ってます。卵ってどれも同じだと思いません?実は全然違うんですよ。手で混ぜていると、この卵は弾力がある、この卵はないってわかるんです。何軒か食べ比べて、たどり着いたのが今使っている卵です」

こだわりの卵を1本に23個も使い、全て手作業で作りあげます。

「泡立て器を使って手でつくっています。機械でやると感覚がわからないので。焼くのも、昔の機械なので目で見て火力を調整しています。2台あるんですけど、同じ機械なのに癖があって、同じ火力でも温度が違うんです。逆に温度を指定するだけの電気の機械だったらうまく焼けないんじゃないかな(笑)本当に全て手仕事です」

「はじめは火力が強すぎて爆発しちゃったり、うまく巻けなかったり、失敗も繰り返しました。でもそれを商品にできて、お客さんが美味しいって言ってくれたら、大変な思いも(報われます)。その時の気持ちを忘れちゃいけないと思ってます」と加瀬さん。

普段作るのは1日8本程度ですが、お正月直前ともなるとその数は1日だいたい100本に。1台の機械で4本分しか焼けないため、1日で機械を10回転以上させ、寝る間も惜しんで伊達巻を作ります。

「1日13時間くらい、目一杯作ります。年末は伊達巻だけで卵を4000個も使うので、ひたすら割って混ぜて焼いてって…」

お正月用の伊達巻が終わっても、元日から出前があるのでまだ休めません。例年七草頃までは休みなく働き、節分の恵方巻きが終わってやっとひと段落するそうです。

「大変ですけど、それがないと不安というか、やり切った気がしないので」

魚に触れない、包丁も使えない。それでも和食の道へ

寿司屋の息子として生まれ育った加瀬さんですが、「家を継ぎたい」と思ったことはありませんでした。

「親とかお客さんに言われて、自分が継がなくちゃしょうがないのかなとは思っていました。小学生の文集にも継がなくちゃって書いてありましたね」

「魚は食べられないし触れない。包丁も使ったことがない状態で見習いに出ました」

技術も知識もないまま修行を始めた加瀬さんに対して、次々に仕事を任されていく調理師学校卒の同期。

「辛かった」と振り返る加瀬さんですが、周囲に恵まれ、辛い修行時代を乗り越えたそうです。

「先輩には『できなくてもやる気があれば』って言ってもらえたので、それが嬉しかったですね。それから親父さんがいい方で。『洗い物をやってやるからもっと仕事をやらせてもらえ』って。でも先輩は『なんで親父に洗い物なんかやらせるんだ』ってなるじゃないですか(笑)間に挟まれて辛い時もありましたけど、いい思い出も多いです」

東京で和食の修行を3年、成田市の寿司店で1年の修行を積んだのち、23歳で銚子に帰郷。実家のあづま寿司を継いだ加瀬さんは新たな壁にぶつかります。

「修行時代は裏方だったのでひたすら作っていましたが、戻ってきてからは接客も必要になりました。それまで接客をしたことがなかったので恥ずかしい思いもあったし、お客さんに怒られたり、寿司屋向きじゃないって言われたこともありました」

「お客さんはどうしたら喜ぶかっていうのは接客してみないとわからない。あづま寿司に戻ってきてからお客さんの気持ちをより考えられるようになりました」

仕入れは1日2回。新鮮な地魚が食べられるお店に

あづま寿司の創業は1966年。長きにわたって銚子で愛されている寿司店ですが、充規さんの代になってから変えた部分もたくさんあるそうです。

「僕が戻ってきてから、地魚中心、伊達巻、寿司メインのコース料理に変えました。ランチや釜飯もやっています」

「昔は飲むお客さんばかりで残されることも多かったので、料理のスタイルを変えました。宴会料理は、お客さんがきたらもう並べてあるのではなく、温かいものを温かいうちに食べられるように出し方を変えました」

敷居の高いイメージがある寿司店に気軽に入ってもらえるよう、ランチも始めました。

ランチの「鯵のなめろう丼」

また、銚子を代表するブランド魚「銚子つりきんめ」の釜めしも人気。最後は熱々のダシをかけてお茶漬け風にするのがおすすめです。

「鯛めしをお茶漬けにして食べた時に、金目でやったら美味しいんじゃないかと思って始めました。外国からのお客さんも注文してくれます。英語で説明するのが難しいですけど(笑)でも日本語で『ありがとう」』って言ってもらえるのがすごく嬉しいです」

仕事へのこだわりを伺うと「手間をかけるようにしている」と加瀬さん。

「出来るだけ新鮮な地魚を仕入れられるように、朝と午後の1日2回仕入れに行ったり、そこまでしなくても、ってところまであえてやるようにしています。お客さんが喜んでくれれば、そのひと手間が喜びに変わりますから」

「ちょっと遠くても『またあのお店に行きたいね』っていう気持ちになってもらえるお店にしたいです。ゆっくり食事を楽しめる、くつろげるお店にすることが今の目標です」
銚子の新鮮な地魚と伊達巻を食べに、あづま寿司に行ってみませんか?

(聞き手・佐野明子/撮影・地下玲菜/文・江戸しおり)

伊達巻の注文は以下で受け付けています。(年内は締め切り済みです。1/7から予約受付再開予定です)

https://choshidate.theshop.jp/items/4259780

あづま寿司
銚子市三軒町8-21
0479-22-5961

関連記事

  1. たくさんの人に食の大切さを知ってほしい!イベントやカフェ運営を精力的にこなす木ノ内悦子さん

  2. 唯一無二の作風で黒潮美遊を支える!総合プロデューサー 鈴木大心さん【黒潮よさこい祭り開催直前インタビュー②】

  3. 潮風と人情に惹かれて銚子にやってきた凄腕料理人・堀川さんが腕を振るう日本料理店「衛松」

  4. 農業の楽しさを伝えたい!銚子を舞台に挑戦を続ける農家・坂尾英彦さん

  5. かわいいトゥクトゥクで海風と潮の香りを感じる銚子旅に出発!

  6. 350年以上の伝統を守るために新しい風を起こす!ヤマサ醤油・冨成浩静さんに迫る